大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和32年(う)747号 判決

所論は原判決は判決に裁判長の署名を欠き無効である旨主張する。よつて記録に徴するに原判決には裁判長裁判官畠山成伸の署名があり、その署名が原審における本件の審理、判決に関与した畠山裁判官その人の署名であることは疑を容れる余地がない。ところで論旨は畠山裁判官の名は成坤であり、畠山成伸なる裁判官は存在しないというのであるが右畠山裁判官は本件判決当時氏名を畠山成伸としてその職務上の署名に広く用いていたことが当裁判所に顕著なところである。そもそも氏名とは自己を他人と区別しこの意思の下に表現せられるところのものにより自己の同一認識を得さるがため使用せられるものである。而してこれが社会通念上その表現者自身の同一認識に役立ち、氏名の体裁を具える以上、その者の氏名と解して何等支障あるものではない。畠山裁判官は本件の審理判決当時は勿論現在も裁判官たるの資格を有し、大阪地方裁判所に勤務する者であることも当裁判所に顕著な事実であるからその裁判官が自己を表現するため用いる畠山成伸なる氏名は叙上説示するところに照し同裁判官の氏名とみて差支えなく、存在しない裁判官を指称するものとは到底解することができない。しかのみならず同裁判官の裁判官任命当時には畠山成坤なる氏名が用いられていたとしても、その後昭和二十四年畠山成伸と改名する届出が最高裁判所宛に公式になされ、且つ現在戸籍簿上同裁判官の氏名が畠山成伸と記載されておることは甲弁護人においても争わないところであるから、その届出、戸籍簿上の記載がなされるまでの経過中において非難あるかどうかはしばらくおき、現在公式の右届出、戸籍簿の記載が有効に存する以上、これに照応する畠山成伸なる氏名を畠山裁判官が用い、判決に氏名として署名したればとて、これを以て、その署名が無効となり、判決に署名を欠くに至るものとなすべきいわれはないのである。所論を検討しても原判決に所論の違法があるものとはなし難いから論旨は理由がない。

(裁判長判事 吉田正雄 判事 山崎寅之助 判事 大西和夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!